前回に引き続き、遺産分割における特別受益の持戻しについて、実例を取り上げます。
【受取人指定の生命保険金について】
(1) 被相続人が、自分自身を被保険者とし、受取人に第三者を指定する生命保険契約を締結した場合、この死亡保険金請求権は、被相続人の死亡と同時に、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得することになります。
そのため、このような生命保険金は相続財産に含まれず、遺産分割の対象にはならない、というのが確定した裁判実務です。
(2) また、被相続人がそれまで支払ってきた保険料により受取人が利益を得ることから、このような生命保険金が特別受益として持戻しの対象になるのではないかという問題がありますが、最高裁は、原則として、特別受益として持戻しの対象とならないと判断しています。
ただし、これには例外があり、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、その生命保険金は特別受益に準じて持戻しの対象になるとしています。
(3) 最高裁の言う「特段の事情」とはどのようなものかといいますと、「保険金額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人の関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべき」としています。
(4) ここで、弁護士が関わった実例をご紹介しますと、遺産総額(マンション、預貯金、有価証券)は647万円ほどであるのに対し、相続人である配偶者が受け取る生命保険金は1100万円という事例がありました。
この生命保険金の遺産総額に対する比率は、170%と極めて大きな比率です。
また、この配偶者は、入籍後1年を経ずして被相続人と別居、その後も同居生活が再開・継続していたとは認められないばかりか、被相続人の介護等の貢献の度合いについては、数十年に渡り、ほとんど認めることができないという事案でした。
他方、他の相続人については、被相続人の介護等に積極的に貢献したというほどではないものの、相応の交流、相互扶助があったものと考えられました。
このような事案において、生命保険金を持戻しの対象としないことは、共同相続人間の公平を著しく欠くものですから、その旨の主張をし、生命保険金1100万円を特別受益に準ずるものとして持戻し、遺産分割の対象としました。
(5) 将来の相続発生に備えて、生命保険をかけ、受取人を特定の相続人に指定しておき、遺産分割の対象から外すことはよくなされていると思います。
しかし、その生命保険金の多寡その他の事情によっては、相続人間の公平が著しく害されることとなり、遺産分割において、その保険金が特別受益に準じて持戻しの対象となることがありますので、注意が必要です。
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