遺留分侵害額請求権の行使に決まった方式はなく、口頭でもよいとされていますが、原則1年以内の期限内に行使したことを確実に証明するためにも、配達証明付き内容証明郵便で行うべきです。本稿では、弁護士作成の書式・記載例とともに解説していきます。
遺留分侵害額請求
遺留分とは
遺留分とは、相続人(兄弟姉妹を除く)に法律上保障された最低限の取り分のことです。
例えば、相続人として子が3人いるのに、被相続人が「全ての財産を長男に相続させる」という遺言を残していた場合、他の子2名の遺留分(この場合は各6分の1)が侵害されているので、他の子2名は一人だけ遺産をもらった長男に対して、遺留分相当額を金銭で支払うよう請求することができます。
これが遺留分侵害額請求です。
今の民法が施行された2019年7月1日以前は、「遺留分減殺請求」と言い、不動産の遺贈などによって遺留分が侵害された場合は、侵害された遺留分に相当する持分を当然に取得する(つまり、物の形で返還を求めることになる)と解されていました。
しかし、民法の改正によって、名称が「遺留分侵害額請求」に改められ、請求の中身も、物の形での返還ではなく、金銭での支払いを求める権利となりました。
遺留分侵害額請求ができる人
遺留分侵害額請求ができるのは、「兄弟姉妹以外の相続人」です。
被相続人の兄弟姉妹には遺留分がないのです。
例えば、子のいない被相続人が「全ての財産を配偶者に相続させる」という遺言を残していた場合、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありませんので、全ての財産を相続した配偶者に対して何も請求することはできない、ということです。
遺留分割合の計算
遺留分の割合は、
【直系尊属のみが相続人である場合】
遺留分を算定するための財産の価額×3分の1
【上記以外の場合】
遺留分を算定するための財産の価額×2分の1
と決まっています。
複数の相続人がいる場合は、さらに、上記に各人の法定相続分をかけます。
具体例で見てみましょう。
相続人が妻A、子B、子C、子Dの4名である場合に、子Dの遺留分割合は、
遺留分を算定するための財産の価額
×2分の1(直系尊属のみが相続人である場合以外の場合なので2分の1)
×6分の1(子Dの法定相続分)
=12分の1
となります。
遺留分侵害額請求には期限がある
遺留分侵害額請求には期限が定められており、
「相続の開始(=被相続人の死亡)及び遺留分が侵害されている事実」を知ってから1年以内
に請求権を行使しなければなりません。
1年の期限の起算点は、あくまで、
「相続の開始(=被相続人の死亡)」と「遺留分が侵害されている事実」を知った時
です。
このため、例えば、被相続人が亡くなったことを知っていたとしても、「全ての財産を●●に相続させる」という遺言が存在すること(=自分の遺留分が侵害されていること)を確知しない限り、1年のカウントはスタートしません。
1年以内に請求権を行使したというためには、後述するように、通常、遺留分を侵害している相手に対し、遺留分侵害額請求をする旨の内容証明郵便を送ります。
この内容証明郵便が1年以内に相手方に届きさえすえば、ひとまずは5年間、請求権が保全されます。「請求して、相手方から遺留分相当額の金銭の支払いを受けるまで、全てひっくるめて1年以内にやらなければいけない」というわけではありません。
なお、1年の期限とは別に、「相続開始から10年」が経過した時にも、遺留分侵害額請求権は消滅します。
つまり、仮に、「全ての財産を●●に相続させる」という内容の遺言が存在すること(=自分の遺留分が侵害されていること)を知らなかったとしても、10年を経過してしまえば、遺留分侵害額請求はできなくなる、ということです。
遺留分侵害額請求は内容証明郵便で!
実は、遺留分侵害額請求の方式に決まりはなく、書面はもちろん、相手方に口頭でその旨を伝えるというやり方でも有効です。
しかしながら、先に述べたように、遺留分侵害額請求には原則として「1年以内」という期限があります。
相手方に口頭で伝えただけだと、日時も残る形でしっかりした録音・録画でも撮っておかない限り、相手方に「聞いていないよ」と否定されればそれまでになってしまいます。
期限内に請求権を行使したという証拠をしっかり残しておくためにも、遺留分侵害額請求は必ず書面で、しかも、できれば配達証明付きの内容証明郵便で行うことを強くお勧めします。
内容証明郵便
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰宛てに差し出したかにつき、差出人が作成した謄本によって郵便局が証明してくれる制度です。
これに配達証明を付けることで、郵便が相手方に届いた事実(到達した日にち)も証明することができます。
つまり、遺留分侵害額請求を配達証明付きの内容証明郵便で行えば、
■請求をした日
■請求の内容
■請求が相手方に到達したこと
がいずれも明確に証明できるのです。
内容証明郵便の差出方法
内容証明郵便は、集配郵便局および支社が指定した郵便局で差し出します。
郵便局まで直接出掛けずに、電子内容証明サービス(e内容証明、インターネットで24時間受付)を利用する方法もあります。
内容証明郵便を送るために用意するもの
- 内容文書(受取人へ送付するもの)
- 内容文書の謄本2通(これらを差出人と郵便局が1通ずつ保管します)
- 差出人および受取人の住所氏名を記載した封筒
- 内容証明の加算料金を含む郵便料金
- 差出人の印鑑(必要になる場合があるので念のため持参するとよいでしょう)
※最新の情報は郵便局までお問い合わせ下さい。
内容証明郵便にかかる料金
内容証明郵便を差し出すには、
基本料金+一般書留の加算料金+内容証明の加算料金
がかかります。
このうち内容証明郵便の加算料金は、「480円」(2枚目以降は290円増)です。
配達証明付きで差し出す場合は、さらに配達証明の加算料金として「350円」がかかります。
※最新の情報は郵便局までお問い合せ下さい。
内容証明郵便に同封できないもの
内容証明郵便を差し出す場合、内容文書以外の次のようなものは同封することができません。
■図面
■返信用封筒
■為替証書、小切手等の有価証券 など
遺留分侵害額請求の場合、入手した公正証書遺言の写しや遺産目録を同封したいと思われるかもしれませんが、内容証明郵便で発送する場合にはこれらは同封できないということです。
内容証明郵便の文書の作成方法
内容証明郵便で差し出す文書(用紙)の大きさや、記載用具に制限はありません。
ただし、文書(謄本)の作成にあたっては、以下の制限を守る必要があります。
【縦書きの場合】
1行20字以内、1枚26行以内
【横書きの場合】
■1行20字以内、1枚26行以内
■1行13字以内、1枚40行以内
■1行26字以内、1枚20行以内 のいずれかに合致させる
上記の字数・行数の制限については、括弧や数字および記号などの算入方法について細かいルールがあります。
また、訂正の方式や謄本が2枚以上に渡る場合の契印など注意すべき点もありますので、詳細を郵便局に確認したうえで作成するようにしてください。
遺留分侵害額請求の内容証明郵便に記載する事項
遺留分侵害額請求の内容証明郵便に記載する事項については、特に法律に定めがあるわけでもなく、決まった書式やテンプレートもありません。
ただし、当然ながら、絶対に落としてはいけない記載として、「私はあなたに対して遺留分侵害額請求権を行使します」という明確な意思表示は載せなければなりません。
その他、必ず記載すべきこととしては、
■請求者の氏名および住所
■相手方の氏名および住所
■遺留分を侵害する遺言の内容(遺贈)または生前贈与の内容
があります。
本来であれば、遺留分算定の基礎となる財産(遺産の種類や評価額、生前贈与の時期や内容)を正確に把握したうえで、自分の遺留分がどれだけ侵害されているかを計算し、具体的な請求金額まで書けるとよいのでしょうが、最初に内容証明郵便を送るこの段階では、それらの情報が全て入手できていることは稀でしょう。
そのため、下記の記載例のように、この段階では、具体的な請求金額まで書く必要はありません。
財産関係が正確に把握できていないこの段階で、独自の計算や推測をもとにした請求金額を書いてしまうと、その後の交渉や調停等で揉める原因ともなりかねませんので、かえって避けた方がよいでしょう。
遺留分侵害額請求の内容証明郵便【書式・記載例】
上記を踏まえた、遺留分侵害額請求の内容証明郵便の書式・記載例をご紹介します。
案外あっさりしている、という印象でしょうか。
上記は一例で、事案によっては文章を変えることもあります。
あくまでも一つの書式・記載例として参考にして下さい。
不安があれば専門家に相談を
ここまで遺留分侵害額請求の内容証明郵便について解説してきましたが、内容証明郵便を出すにあたっては、正確な相続人調査や、請求の相手先の確定(複数の受遺者や受贈者がいるケースで、誰が遺留分を侵害しているのかの見きわめ)など、上記の他にも注意しなければならない点があります。
また、内容証明郵便を送っても、相手方がそれに素直に応じてすんなりと遺留分相当額を支払ってくれるとは限りません。
内容証明郵便の発送やその後の相手方との交渉など、ご自分の手に余ると感じられる場合には、弁護士などの専門家に頼ることも検討してみてはいかがでしょうか。
内容証明郵便の発送から弁護士に依頼することもできます。
期限内に適切に請求権を行使し、その後然るべき金銭の支払いを受けるためにも、遺留分のことでお悩みの方は是非一度ご相談下さい。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。