依頼者Aさんは、実家の両親を相次いで亡くし、その遺産分割をきちんとしておきたいと考えていました。
しかし、もう一人の相続人である兄B氏は、さしたる理由もなくAさんのことを敵視しており、まともに話ができない状態でした。
顔を合わせると、事実無根の事柄を並べ立てて暴言を吐いてくるB氏。その対応に疲れ果てたAさんは、弁護士を間に入れたうえで、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることにしました。
交渉・調停・訴訟等の経過
ご両親の遺産は膨大であったため(100件超の不動産、多数の預貯金・証券類などなど)、遺産の全容を調査するためだけでもかなりの期間を要しました。
実家の蔵の中には金庫もいくつかありましたが、B氏の性格を考えると、一方当事者だけで中を検めるのはトラブルの元になることが明らかでした。そこで、Aさん・B氏も含め全当事者が現場に集合したうえで、公証人に出張をお願いし、金庫開被の手続きをおこなって、中に入っていた物品の詳細な目録を作成してもらいました。
調停の途中で、B氏からは「自分が両親の療養介護をした」旨の主張があり、寄与分を定めるための別の調停が申し立てられましたが、Aさんも同程度の面倒はみてきており、調停委員や調停官の働きかけもあって、この調停は取り下げられました。
多数ある不動産は交通の便の悪い地方に位置しており、両者とも積極的な取得を望んでいませんでしたが、それだと話が進まず、またB氏が取得した場合の近所への影響(管理が行き届かず迷惑をかけるのではないか)を考え、Aさんは全ての不動産を自分が取得する決断をしました。
本事例の結末
調停成立。
(不動産を含む全ての遺産をAさんが取得したうえで、AさんからB氏に対し、遺産の2分の1に相当する金額を支払うこととする)
本事例に学ぶこと
遺産が膨大であったこと、遠方の実家での作業が必要であったこと、それにB氏の苛烈な性格(しかも、言い分がコロコロ変わる)が相まって、ご依頼から調停成立まで、実に6年以上の時間がかかりました。
しかし、弁護士に依頼して調停を起こさなければ、本件は恐らく永久に解決できなかったと思います。
このように、「当事者同士ではまともに話ができない」というケースでは、早期に弁護士や裁判所を間に立てることをお勧めします。
弁護士 田中 智美