紛争の内容
Aさんには、相続人として2人の息子がいますが、長男にはこれまで散々苦労をさせられ、泣きつかれる度に多額の金銭的援助をしてきました。
一方で、Aさんの面倒は同居している次男一家が見てくれており、Aさんや次男一家が困った時も長男は一切関わろうとしません。
そこで、Aさんは「自分が死んだ時には、全ての財産を次男に遺したい」と考えるようになり、その旨の遺言書を早めに作成したいと希望していました。
交渉・調停・訴訟などの経過
Aさんの希望どおり「全ての遺産を次男に相続させる」との遺言書を作成した場合、長男からは遺留分侵害額請求がなされることが当然予想されますので、長男には遺留分相当額くらいは遺す内容にすることを勧めましたが、Aさんの意思は固く、そうしたリスクがあることは重々承知のうえで、それでも次男に全てをあげたいということでした。
そこで、「全ての遺産を次男に相続させる」としたうえで、付言事項として、長男に対し、なぜこのような内容の遺言を作成するに至ったのかを、これまで援助してきた金額とともに書き添え、遺留分侵害額請求をしないよう求める、と記載することにしました。
本事例の結末
公正証書遺言を作成
内容は、「全ての遺産を次男に相続させる」。
ただし、付言事項として、長男に対し、このような遺言をする理由と、これまで長男には十分な金銭的援助をしてきたこと、遺留分侵害額請求をしないよう求めることを記載した。
本事例に学ぶこと
相続人の1人だけに全ての遺産を相続させるという内容の遺言書を作成した場合、当然予想されるのが、遺産をもらえなかった相続人からの遺留分侵害額請求です。
通常は、そのような事態を避けるため、遺留分に相当する程度の遺産はその相続人にもいくように手当てをしますが、積年の事情から、そのような手当てをすること自体、心情的に受け付けられない、ということもあります。
そのような場合、法的に禁止するまでの効果はありませんが、遺言書に遺留分侵害額請求をしないで欲しいことを記載しておきます。遺言者の心情やこのような遺言書にした理由なども添えておけば、遺産をもらえなかった相続人も、それらを読んで一定の理解を示してくれるかもしれません。