紛争の内容
Bさんの母親であるAさんは多数の不動産を所有し、何棟ものアパートを経営していたが、ここ最近急速に認知症の症状が進み、子供達の顔も分からない状態になってしまった。
時を同じくして、経営しているアパートの1棟で大規模な改修工事を行う必要が出てきたが、Aさんの現状では改修工事の契約を結ぶことも難しく、また流動資産がほとんど手元にないため、一部の不動産を売却して資金を用意する必要があったが、それもまたAさんには理解できないであろうと思われた。
Aさんの主治医からは、「後見相当」との診断書をいただいているとのこと。
そこで、Bさんの依頼を受け、Aさんにつき成年後見人選任の申立を行うことにした。
交渉・調停・訴訟などの経過
これまでも、高齢のAさんに代わって不動産業者や入所施設とのやり取りを実質的に代行していたのはBさんであることから、Bさん他4名の子らの全員が、Bさんが後見人になることに異存はなかった。
そのため、Bさんを候補者として申立をしたが、家庭裁判所では、流動資産はほとんどないとはいえ、Aさんが多数の不動産や有価証券、出資金等を持つ資産家であり、財産状況の報告だけでも大変であることから、親族を後見人とすることに難色を示した。
しかしながら、Bさんは大変に事務処理能力が高く、これまでのAさんの資産管理や身上監護も非常にしっかり行ってきた方なので、その点を裁判所にわかってもらうべく、(弁護士ではなく)全てBさんが作成した財産目録等を提出して裁判所の不安を払拭するように努めた。
本事例の結末
Aさんにつき後見が開始され、専門職(司法書士)の後見人が選任された。
ただし、専門職の後見人がつくのは当面のアパート改修費用の工面に必要な不動産の売却までで、それ以降はBさんが後見人になるという条件付きであった。
本事例に学ぶこと
Bさんの能力の高さが裁判所にも伝わり、条件付きでの後見人選任となったことは非常に喜ばしいことであった。
親族間に全く争いがなくても、被後見人が多数の資産を有していると、裁判所では、「親族後見人では適切な維持管理・報告ができない」→「だから専門職を後見人に選任する」ということがあり得るので、注意が必要である。