紛争の内容
事業を営んでいるAさんは、そろそろ高齢となり、自身の死後を見据えた遺言書を作成することにしました。

Aさんの相続人には、妻Bさん、長男Cさん、次男Dさん、三男Fさんがいますが、このうち三男のFさんとはそりが合わず、会社の経営を巡る対立がありました。

Aさんの主な遺産は、土地・建物(現在Dさんが家族で住んでいる)、預貯金、会社の株式でした。

交渉・調停・訴訟等の経過
Aさんは「会社の経営は長男Cに任せたい。次男のDには今住んでいる不動産を遺したい」と希望する一方、「三男のFには何も相続させたくない」とのことでした。
しかしながら、Fさんに何も相続させない旨の遺言にしてしまうと、Aさんの死後、Fさんが他の相続人に対して自身の遺留分(本件では12分の1)を請求する可能性が極めて高く、紛争に発展してしまう恐れがありました。
そこで、Fさんにも遺留分に相当する分がいくよう、CさんからFさんに代償金の形で支払いをしてもらう旨、記載することにしました。
また、妻のBさんには、すでに自宅の土地・建物を生前贈与したため、今回の遺言の中では特段何も遺さないこととしました。

本事例の結末
公正証書遺言を作成。内容は、
①長男Cに預貯金と会社の全株式を相続させる
②次男Dに土地・建物を相続させる
➂長男Cから三男Fに対し、代償金としてFさんの遺留分に相当する金銭を支払う
というもの。

本事例に学ぶこと
これまでの諸事情・関係性から、「この相続人には何も相続させたくない」という方もいらっしゃいますが、そのとおりの遺言書を作成してしまうと、ご自身の死後、遺産を取得した相続人が何も相続できなかった相続人から遺留分侵害額請求を受けることになり、結局、遺産を残してあげた相続人に苦労をかけてしまうことになります。
ここは冷静になって、現在の資産状況からその相続人の遺留分を試算し、最低でもその遺留分に相当する財産だけは取得させる内容にしておくことが肝要です。

弁護士 田中智美