紛争の内容
父親が亡くなり、相続人は子2名(A氏、B氏)。

遺産は、不動産(賃貸中のアパート1棟、自宅の土地建物、B氏が住んでいる建物)、預貯金(3000万円程度)、国債などの金融資産(1000万円程度)がありました。

B氏は、法定相続分の割合(2分の1)で平等に分けることを前提に、その中で現に自分が住んでいる建物の取得を希望していました。これに対し、A氏は、「アパートと金融資産全てを取得したい」と、評価額において明らかに2分の1を超える取り分を主張して譲らなかったため、協議は難航。

B氏からの依頼を受けて、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになりました。

交渉・調停・訴訟等の経過
調停を申し立てた後も、A氏は、アパートの評価額を低く見積もったうえで「アパート+金融資産」を取得することを希望する一方、「仮にB氏がアパートを取得するのであれば、収益物件として相応の評価をすべきである」として高額な査定書を提出したりするなど、一貫性のない主張を繰り返しました。

調停委員の説得もあり、A氏の側も途中で代理人弁護士を選任したため、以降は主張が整理されて、話し合いが進むようになりました。

問題は収益物件であるアパートの評価でしたが、A氏・B氏ともに現物で取得したいとの強い希望までは有していなかったため、まずはこのアパートを売却し、その売却代金を公平に2分の1ずつ分けることにしました。

その後、住んでいる建物の取得を希望してきたB氏の側で、残りの遺産を全て相続したうえ、それらの2分の1に相当する金額を代償金としてA氏に支払うことで折り合いがつきました。

本事例の結末
調停成立。
内容は、「(先に売却したアパートを除く)全ての遺産をB氏が相続する。B氏は、A氏に対して、2分の1相当額の代償金を支払う」というもの。

本事例に学ぶこと
本件でA氏の主張が二転三転していたのも、収益物件であるアパートの評価をどう見るかの問題に帰着していました。
幸いにもこのアパートが高値で売却できたことで、最大の争点が解消でき、その後の話し合いがスムーズに進みました。
このように、評価額に争いのある収益不動産がある場合で、相続人の誰も現物取得を希望しないのであれば、先行して売却してしまうのも有効な方法です。

弁護士 田中智美・弁護士 野田泰彦