紛争の内容
夫に先立たれたAさんは、一人暮らしは心配であるとして長男B夫婦と同居することになりましたが、生活費の分担をめぐってBとの関係が悪くなり、Bから日常的に暴力を振るわれるようになりました。

ある日、暴力がエスカレートして警察が介入する騒ぎとなり、次男C夫婦がAさんを保護、以降、AさんはC夫婦と暮らすことになりました。

落ち着いた生活を取り戻したAさんは、将来のことを考えるようになり、自分の遺産はできれば全てCに取得させたいとして、遺言書を作成することになりました。

交渉・調停・訴訟等の経過
Aさんの財産に不動産はなく、預貯金が全てでした。

Aさんの希望は、財産の全てをCに相続させることでしたが、そのような内容の遺言書にすると、Bは必ず遺留分を主張してCとの間でトラブルになることが明らかでしたので、Bにも遺留分に相当する金額を予め取得させることにしました。

本事例の結末
公正証書遺言作成。
(「死亡時の遺産の4分の3をCに、4分の1をBに相続させる」との内容)

本事例に学ぶこと
「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき」は、被相続人は家庭裁判所にその推定相続人の廃除を請求できることになっています。

しかし、本件のAさんはそこまでは望まないとのことでした(正確には、そんなことをしたらBに何をされるか分からないという心配もあったようです)。

このため、暴力を振るっていたBも相続人として存在することを前提に、できる限りの生前対策をとった形です。

弁護士 田中 智美