紛争の内容
被相続人は88歳で亡くなりました。
亡くなる数年前から認知症を患い、一人暮らしでしたが、一人で生活することは困難になっていたといいます。
被相続人には頼れる身内がおらず、亡くなる約1年前に地域の民生委員の力を借りて施設に入所し、その後、成年後見人も選任されました。
しかしながら、成年後見人が就任してまもなく、ご病気で亡くなってしまいました。
成年後見人が被相続人の銀行口座を管理していましたので、これを引き継ぐべく相続財産清算人の選任申立てがなされ、私が選任されました。
しかし、上記のような事情から、成年後見人も、施設の方も、被相続人の詳細な財産状況や施設に入るまでの生活状況を把握しきれていませんでした。施設入所を後押ししてくださった民生委員の方も退任されていて、お話は聞けませんでした。
相続財産清算人の職務は、①相続財産の管理、②相続人の存否の確定、③相続財産の清算及び国庫引継です。
今回のケースでは、②はともかく、①と③に課題があるということが分かりました。
交渉・調停・訴訟等の経過
今回のケースで一番気になるのは、「施設に入所する前の住居は現在どうなっているのか?」という点です。
前述の通り、本人は認知症が進んでいたそうですから、本人が片付けて施設に入ったということはほぼあり得ず、むしろ手付かずのまま放置されていることが懸念されました。
そこで、施設に入所する前の住所について調査をしました。
すると、前の住所の物件は、被相続人ではない別の人物が所有している建物であることが分かりました。
その後さらに調査を進めると、単なる偶然なのですが、その物件の所有者はごく最近に亡くなっていることが判明しました。
被相続人の生前を知る可能性のある人物が亡くなっていたことは非常に残念でしたが、幸いにも物件の所有者の相続人と連絡がつき、その協力を得て、住居内を調査することができました。
やはり推測通り、住居内には被相続人の生活動産類が溢れていました。
物件のオーナーが亡くなっていたことによって、この物件に生活動産が残置されていることに誰も気が付かなかったというわけです。
その後、専門業者を依頼して住居内を片付け、住居内に残された財産や資料を回収することができました。また、物件の所有者の相続人に、当該物件を引き渡すことができました。
本事例の結末
上記の通り、主として施設に入る前の生活状況を調査し、その清算を行いました。
財産については換価し管理していましたが、今回のケースでは特別縁故者は現れず、相続財産は国庫に納められることになりました。
本事例に学ぶこと
昨今では「終活」「老い支度」というような言葉が流行り、自身の晩年に想いを馳せる方も多いところです。
今回のケースでは、認知症が進んでしまい、SOSを出すことすら難しかったかもしれません。しかしながら、民生委員、成年後見人、相続財産清算人とバトンが受け継がれて、最終的には被相続人の人生には「きまり」がついたと思っています。
不動産賃貸業を営んでいる方からすると、今回のように施設に入所してしまい実際には住んでいないという状態や、入居者が亡くなってしまったが生活動産が残置されているという状態は非常に悩ましいものと思います。
事案ごとに採るべき手段は異なりますので、まずは弁護士までご相談頂ければと思います。
弁護士 木村 綾菜