紛争の内容
Aさんの母親は今から約10年前に亡くなりましたが、その際、相続人間で遺産分割協議は行われず、Aさんは何となく「父が全て相続したのだろう」と考えていました。
その後、最近になって父親が亡くなりました。
葬儀が終わり、父親の遺品を整理していたAさんは、亡くなったはずの母親宛ての金融機関からの請求書や、つい最近まで借入金を返済していた旨の記載がある母親名義の通帳を発見しました。どうやら、母親には借金があり、それを父親がつい最近まで母親に代わって支払っていたようなのです。Aさんは、このままでは母親の借金を相続してしまうことになるのではないかと心配になり、ご相談にお越しになりました。

交渉・調停・訴訟などの経過
本件では2次相続が発生していますので、Aさんが母親の借金を引き継がないようにするためには、母親と父親、両方の相続につき相続放棄を申し立てる必要がありました。
父親が死亡してからはまだ3か月が経過していないのですが、問題は母親の方です。
母親が死亡してからはすでに10年が経過しており、形式的に見れば3か月の熟慮期間をとっくに過ぎてしまっています。しかし、Aさんから事情を伺うと、母親の死亡した当時、Aさんはすでに独立して実家を出ており、母親に借金があることを知る由もなかったこと、その後も実家とは通常の行き来があったが、父親からも母親の借金の存在など一切聞いたことがなかったことが分かりました。しかも、母親の遺産分割自体が未了であり、Aさんは母親の遺産を一切受け取っていません。
そこで、Aさんが母親に借金があることを初めて知ったのは、父親の遺品から請求書等を発見した日であるとして、その日から3か月以内の申立であることを理由に、母親の分についても相続放棄を受理するよう家庭裁判所にお願いして、申立を行いました。

本事例の結末
母親の分も、父親の分も、無事に相続放棄を受理してもらうことができました。

本事例に学ぶこと
「相続放棄は被相続人が亡くなってから3か月以内にしないといけない」ということは広く知られていると思います。Aさんにもその知識があったため、「母親が亡くなったのは10年も前のことだし、これは諦めるしかないのではないか」とご不安になったことと思います。
しかし、本件のように、死亡後長期間が経過しているケースでも相続放棄が認められる場合がありますので、是非一度弁護士に相談いただくことをお勧めします。

弁護士 田中智美