紛争の内容
依頼者の父親が亡くなり、相続が発生しました。亡父は、生前事業を行っており、事業を継いだ子に対して全ての相続財産を相続させる遺言書を作成していました。依頼者に先立って、依頼者の兄弟が、単独で遺産を受け継いだ相続人を相手取って、遺留分侵害額請求をしていました。これを受けて、依頼者としては、他の兄弟とのバランス、相続財産が多額であること、遺留分侵害額請求の時効が迫っていることから、弊所へ相談されるに至りました。
交渉・調停・訴訟などの経過
ご依頼を受け、まずは、単独相続人に対し、遺留分侵害額請求をする内容の内容証明郵便及び特定記録郵便を送りました。しかし、相手方は、内容証明郵便を受け取らず、交渉が中々進みませんでした。
そんな中、相手方から弊所に返信があり、ようやく交渉が始まりました。しかし、相手方は、「もう他の兄弟の請求に応じて遺留分を支払ってしまったのでお金がない」「依頼者は遺留分を請求しないといったはずだ」「依頼者の母親にも迷惑がかかる」といった、感情面に訴える主張をするばかりでした。遺留分侵害額全額を支払えとまでは言わないまでも、具体的な相手方の財政状態が分からないことには、どうにも交渉ができません。このような中身のないやり取りのまま交渉が平行線のままとなってしまいました。
それでも、様々な譲歩案を提示しながら、根気よく交渉を続けていった結果、相手方からようやく具体的な金閣提示を受けるに至りました。もっとも、その提示内容は、遺留分支払が何年も先になる条件のもので、将来依頼者が本当に遺留分を回収できるか不安がありました。そこで、抵当権設定という物的担保を設定したり、公正証書化することで、将来強制執行するための債務名義を取り付けたり、といった条件を提示しながら、交渉を続けていきました。
本事例の結末
最終的に、相手方は、近いうちにまとまった金銭を工面できるとの回答をしたため、回収を担保するための方策を講じる必要はなくなりました。、もっとも、相手方が約束したときまでに支払わなかった場合には、譲歩した請求額も白紙に戻すという条件で、和解することとなりました。
その後、相手方から依頼者に対し、約束通り金銭の支払いがなされ、問題解決をすることができました。
本事例に学ぶこと
遺留分侵害額請求を行うには、時効という法的問題のみならず、他の相続人が先立って遺留分侵害額請求をすることによって単独相続人の分配可能な財産がなくなってしまうという事実上の問題が潜んでいます。本件も、遺産の大半を占めていたのは不動産であり、しかも当該不動産を使って単独相続人が事業を行っていたので、単独相続人が処分できる流動資産を目的とした遺留分侵害額請求は、早い者勝ちとなってしまいます。
親族間で相続問題が発生した場合、感情面から遺留分侵害額請求をためらうこともあるでしょう。しかし、悩んでいるうちに何もしないで時間が経ってしまうと、後になって何も出来なくなる後悔が生じることがあります。実際に請求するかどうかは別として、専門家である弁護士のアドバイスを得てから、冷静に考える、具体的な行動を起こすことが得策です。お困りの際には、ぜひ一度、弁護士に相談されることを強くおすすめします。
弁護士田中智美 弁護士平栗丈嗣