葬儀費用は誰が払うのか?遺産から支払う方法は?弁護士が解説します!

実は、葬儀費用(葬式代)は遺産から当然に出せる訳ではありません。また、相続人全員で負担する義務があるわけでもありません。この記事では、葬儀費用は法的には誰の負担とされているのか、遺産から支出するためにはどうしたら良いのか解説します。

葬儀費用は相続の場面で問題になりやすい

葬儀費用は相続の場面で問題になりやすい

人がお亡くなりになった場合、その規模や様式はさておきとして葬儀・葬式をあげることが一般的です。そうすると、葬儀費用の支払いが必要となりますが、この葬儀費用を「誰が」「どこから」支出するのかという疑問が出てきます。

これには「喪主が負担した」「遺族で分けて出し合った」「遺産から支出した」など、現実の事例として様々な答えがあることと思われます。

このように様々な解決の事例があり、またある程度まとまった金額が必要になることもあり、相続の場面で争いが生じたときに意見の食い違いが生じやすいのが「葬儀費用の負担」という問題の特徴です。

法律上は誰の負担?

法律上は誰の負担?

では、葬儀費用は誰が負担するものなのでしょう?

この点、民法などの法律には「葬儀費用は○○が負担すべき」という明文の定めはありません。

「故人のお葬式なのだから、故人の財産(=遺産)から支払われるものではないのか?」という疑問もあるかと思いますが、裁判例は異なる見解に立っています。

東京地裁昭和61年1月28日判決(判例時報1222号79頁)

葬式は、死者をとむらうために行われるのであるが、これを実施、挙行するのは、あくまでも、死者ではなく、遺族等の、死者に所縁ある者である。したがつて、死者が生前に自己の葬式に関する債務を負担していた等特別な場合は除き、葬式費用をもつて、相続債務とみることは相当ではない。

→葬儀費用は相続債務ではないので、相続財産から当然に清算されるものでも、相続人が当然に負担すべきものでもない。

裁判所は上記のように述べた上で「葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担するのが相当であるというべきである」として、原則として葬式の主宰者(喪主など)が負担するべき債務であるとしました。

つまり裁判所は、葬儀社に対して葬儀を行うことを依頼し、その契約者として代金の支払債務を負担した者が、葬儀費用を負担すべきと考えているのです。

ちなみに…

火葬の費用や納骨代、墓石代などは、お葬式の喪主ではなく、お墓や遺骨を管理していく立場である「祭祀承継者」が負担することが原則です。上記の葬式費用の喪主負担と同じような考え方で、「故人ではなく生きている人」で「お墓や遺骨をどのように管理していくか決める人」が、その分の費用も負担するということになります(現実には、喪主と祭祀承継者が同一人物であることも多く、あまり意識されることは無いかもしれません。)。

したがって、納骨代や墓石代等を、遺産から負担するなど祭祀承継者以外の負担とするためには、葬儀費用と同様の手当が必要になります。

葬儀費用を喪主以外の負担とするには?

葬儀費用を喪主以外の負担とするには?

上記の通り、葬儀費用は、原則として喪主等の負担と考えられています。

では、遺産から出したい、相続人らで分担したいという場合にはどうしたら良いのでしょうか?

以下、段階別に見ていきますので、現在葬儀費用の負担についてお困りの方は、ご自身の置かれている段階以降について読み進めてみて下さい。

1 生前の段階(準備の段階)

1 生前の段階(準備の段階)

この段階では、将来の故人ともいうべき人が、亡くなる前に葬儀費用を準備しておくことができます。

準備の方法としては、

①喪主を務める予定の人を受取人にした生命保険を契約する

②葬儀費用に充てるために、財産のうち一部を、遺言で、喪主を務める予定の人に多めに相続させたり遺贈したりする

③喪主を務める予定の人に、葬儀費用に充てるための資金を生前贈与しておく

などの方法が考えられます。また、最近では信託制度を利用して、葬儀費用分の資金を銀行に預けておくというサービスもあるようです。

今の時点で葬儀費用に十分な資金が無い場合や、将来に遺産としても十分な現金・預貯金を遺せない場合には、①の生命保険を利用する方法が考えられますが、掛金の支払いが必要ですし、葬儀費用の支払いのタイミングまでに保険金が請求できるかどうかという問題があります。

また③の生前贈与は、金額によっては贈与税がかかる可能性があることや、生前贈与した資金を使い込まれてしまう恐れがあることには注意が必要です。

②の場合は、遺言書を作成することが必須になります。喪主を務める予定の人が決まっている場合には、葬儀を執り行うことを条件に(または負担として)、一定額につき相続させまたは遺贈するという遺言が考えられます。

葬儀費用の準備をするご自身と、遺される相続人や親族の状況によって、最も良い方法を選択しましょう。

ちなみに…

遺言に関連する事件を担当していると、遺言書の記載の中に、「遺産から葬儀費用を除いた分を相続人で分けなさい」というようなことが書かれていることがあります。これは自筆証書遺言だけでなく、公正証書遺言でも見られるところです(具体的な文言は様々です。)。

このような記載があれば、当然に遺産から葬儀費用を支出できると考える方も多いと思われます。

しかしながら、遺言書に書ける内容(遺言書に書いた場合に法的な効果や拘束力を持つ内容)は、民法で決まっています。

そして、その中に葬儀費用の支出は含まれません。すなわち、被相続人の死後に発生する葬儀費用を遺産から支出して良いという遺言はできない(書いても法的拘束力が無い)ということです。

それでも遺言に上記のような内容が書かれるのは、被相続人の考え・意思を知って欲しいということになるでしょうか。

したがって、このような遺言を受け、相続人全員で話し合って合意した上で、遺産から葬儀費用を支出して残った財産を分けるという方法を採ることは可能と考えられています。

このように、遺言によって葬儀費用を遺す場合にも、少し工夫や注意が必要となります。

2 支払いの段階

2 支払いの段階

1で見てきたような手当がされないまま、被相続人が亡くなり、葬儀が行われる(もしくは行われた)段階では、多くの場合で喪主が、実際に葬儀費用を支払うことになります。

もし喪主に支払いに充てる資金が乏しい場合には、遺産である預貯金の仮払い制度の利用をご検討下さい。

預貯金の仮払い制度とは、遺産に預貯金がある場合に、その一定額について、遺産分割前でも相続人が払戻しを受けられるという制度です。

参考:一般社団法人 全国銀行協会HP

ただし、この制度による払戻しは、あくまで「仮払い」、すなわち相続する遺産の前借りのようなものです。後日遺産分割をする際には、この払戻しを受けた金額については、すでに受け取っているものとして計算がされますので、葬儀費用の最終的な負担者を決めるという点では足りません。

3 最終的な負担者を決める段階

3 最終的な負担者を決める段階

上記2で払戻しを受けた預貯金や喪主個人の財産から支払われた葬儀費用を、最終的に誰がどのように負担するか(補填するか)という点については、原則は、上記裁判例の通り喪主の負担(補填無し)ということになります。

一方、話し合いによって相続人らが分担することにし、喪主に立て替えてもらっていた分を返金するということは可能です。

また、相続人全員が同意すれば、遺産から支出する(補填する)ことも可能です。

しかし、これらはあくまで葬儀費用の負担について話し合い、合意に至った場合の話です。

例えば遺産分割の話し合いでもめてしまい、その流れを受けて結局葬儀費用の負担について合意を得られなかったという場合には、原則通り、喪主の負担ということになります。

結論:葬儀費用を喪主以外の負担にするには、生前の準備が肝要

結論:葬儀費用を喪主以外の負担にするには、生前の準備が肝要

以上で見てきた通り、葬儀費用を喪主以外の負担にするには、遺言等の生前の準備か、もしくは相続人や親族らの間での話し合いによる合意が必要になります。話し合いがまとまらない可能性もあることも考えれば、葬儀費用をなるべく確実に喪主の財産以外で負担するためには、生前の準備が不可欠ということになります。

生前の準備として上記であげたものの中でも、遺言書を作成することは、様々な面でメリットがあります。

例えば…

・相続人同士での遺産分割協議が不要になる(手続が簡略化できる)

・相続人らに遺産の概要が明確になる

・他の相続人から見ても、葬儀費用分としていくら配分されているかが一目で分かる

・葬儀費用の問題だけでなく、他の相続問題が起きないように配慮ができる 等

遺言書は、自分で文面を考え自筆証書遺言として作成することもできます。

しかし、葬儀費用を遺したい場合や分け方に工夫をしたい場合等には、遺言書に記載する内容に法的な問題が無いようにする必要があるため、一度弁護士に相談されることをおすすめ致します(特に後のトラブルが予想される場合には、公正証書遺言の作成をおすすめしております。)。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
弁護士のプロフィールはこちら