遺留分の放棄は合意書でできる? 遺留分を放棄させる方法

相続人の最低限の取り分である遺留分。その遺留分を放棄するためには単に合意書を作成しておけばよいのでしょうか。実は、被相続人の生前と死後とで結論が異なるのです。本稿では、遺留分を放棄する正しい方法とその注意点について弁護士が解説します。

遺留分の放棄は合意書でできるのか?

遺留分の放棄は合意書でできるのか?

遺留分とは、相続人に保証された最低限の取り分のことです。

被相続人となる方が、相続人Aに遺産を取らせたくないと考えて、「全ての財産をB(別の相続人)に相続させる」との遺言を作成しておいたとしても、Aの遺留分を奪うことはできません。

このような場合、Bは遺言に基づいていったん全ての遺産を相続することができますが、Aから遺留分に相当する金額を支払うよう請求される可能性があるのです。

このように、遺言をもってしても奪うことのできない遺留分ですが、相続人自らにこの遺留分を放棄してもらうこと、例えば、「私はあなたの遺産相続については、遺留分を放棄いたします」などといった合意書を取り交わすことで、遺留分を放棄しておいてもらうことは可能なのでしょうか?

以下、被相続人の生前と死後に分けて説明していきます。

被相続人の生前

生前の遺留分放棄の合意書は「無効」

生前の遺留分放棄の合意書は「無効」

結論から言いますと、被相続人の生前に、遺留分を放棄する旨の合意書(念書や確認書など、表題はともかく、そういった内容の書面は全て)を取り交わしても、法律上は無効です。

相続人自らが「遺留分は要らない」という合意書を作成するというのに、なぜ、無効となるのでしょうか?

それは、遺留分を放棄する相続人が、被相続人や他の相続人からの強い圧力や干渉を受けて、真の自由意志に基づかない合意書を作成させられてしまう可能性があるからです。

生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可は必要

生前の遺留分放棄は家庭裁判所の許可は必要

そこで、ある相続人が、被相続人の生前に遺留分を放棄するためには、家庭裁判所にその旨の申し立てを行い、許可を得なければならないことになっています。

必ず家庭裁判所を通すことによって、不当な遺留分の放棄を防止しているのです。

家庭裁判所で許可されるための判断基準は、

  • その相続人の自由意志に基づく申立かどうか
  • 遺留分を放棄する理由が合理的かどうか
  • 遺留分の放棄と引き換えに代償が支払われているかどうか

の、主に3点です。

①その相続人の自由意志に基づく申立かどうか

これは先にも少し触れましたが、被相続人や他の相続人からの強い圧力や干渉を受けていないか、本当に、その相続人自身が遺留分を放棄してもよいと考えているかどうか、です。

平たく言えば、「放棄させられる」のでは、ダメだということですね。

②遺留分を放棄する理由が合理的かどうか

例えば、婚外子と法律上の配偶者との間の子らが、自分の死後、相続をめぐって争いになることを防止するために、婚外子に事前に遺留分を放棄してもらう(後述する③の代償要件を満たしたうえで)など、放棄する合理的理由があるかどうか、です。

逆に言えば、さしたる合理的な理由もないのに遺留分を放棄したいという申立では、①の要件(自由意志に基づく申立かどうか)にも疑義が生じるかもしれません。

③遺留分の放棄と引き換えに代償が支払われているかどうか

遺留分は相続人に保証された最低限の取り分ですから、放棄してもらうにあたっては、相応の財産的給付(代償)が必要です。

例えば、すでに被相続人から遺留分と同程度の金額の生前贈与を受けている場合は、遺留分の放棄が許可されやすいでしょう。

許可された遺留分の放棄を撤回できるか?

許可された遺留分の放棄を撤回できるか?

家庭裁判所で遺留分放棄の許可を得たけれど、その後の事情の変更により、「やはり遺留分くらいは受け取りたい」となった場合、遺留分の放棄を撤回することはできるのでしょうか?

残念ながら、遺留分の放棄は、一度許可されると、その後、当事者の側から撤回することはできなくなります。

しかしながら、遺留分の放棄が許可された後に、申立の前提となった事情が変化し、客観的に見て遺留分放棄の状態を維持することが不合理・不相当となった場合には、家庭裁判所は職権をもって放棄の許可を取り消すことができるとされています。

そこで、一度許可された遺留分の放棄をどうしても撤回したい場合は、家庭裁判所に対して職権の発動を促す申立をすることになります。

被相続人の死後

死後の遺留分放棄の合意書は「有効」

死後の遺留分放棄の合意書は「有効」

これまで見てきたように、被相続人の生前に遺留分を放棄するためには、その旨の合意書を作成しても法律上無効であり、必ず家庭裁判所の許可を得なければなりませんでした。

一方、被相続人が死亡して、相続が発生した後は、相続人は自由に遺留分を放棄することができます。

つまり、遺留分を放棄する旨の合意書を作成すればそれは有効ですし、家庭裁判所の許可も不要です。

合意書を作成する場合、他の相続人(遺留分を放棄しない相続人)との間で作成するとよいでしょうし、放棄する相続人が単独で作成した念書を他の相続人に差し入れてもよいと思います。

遺留分の放棄で注意すべきこと

「遺留分の放棄=相続の放棄」ではない

「遺留分の放棄=相続の放棄」ではない

遺留分の放棄は、相続の放棄ではありません。

たとえ遺留分を放棄した相続人であっても、相続人であることに変わりはなく、遺産分割に参加して遺産を相続することは可能です。

遺留分の放棄は、あくまで遺留分侵害額請求権が行使できなくなることを意味するに過ぎません。

ある特定の相続人に遺産が行かないようにするため、生前に遺留分の放棄をしてもらった場合は、それとセットで遺言を作成しておくことが必須と言えるでしょう。

遺留分を放棄しても他の相続人の遺留分は増えない

遺留分を放棄しても他の相続人の遺留分は増えない

これも相続分と遺留分を混同していると考えがちなのですが、ある相続人が遺留分を放棄したからといって、他の相続人の遺留分がその分増加するわけではありません。

遺留分放棄の結果、被相続人が遺言で自由に処分できる財産が増えるだけですので、注意して下さい。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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