親が離婚した場合、夫婦の関係は終了し、別居等によって人間関係としての親子関係にも変化があることがあります。では、「法的な」親子関係への影響や、相続への影響はあるのでしょうか。注意点も含めて弁護士が解説します。
離婚した親と子どもの「法的な」関係性
近年では「3組に1組が離婚する時代」などとも言われるように、離婚する夫婦・カップルというのも珍しくなくなりつつあります。
離婚した夫婦の間に未成年の子どもがいた場合には、離婚の際に親権者が定められ、多くの場合では親権者である親と子どもが同居し、もう一方の親が面会交流等により子どもと繋がりを保つという形がとられます(この記事を執筆している時点では、共同親権の運用は始まっていません。)。
しかし場合によっては、同居していない親との関係性が疎遠になり、「もう何十年も会っていないから行方も安否も分からない」とか、「自分が小さい頃に離婚しており交流も無いから、顔も分からない」等といった状況もよく聞かれるところです。
このように、実際の関係性としては完全に切れてしまっているか、限りなく疎遠になってしまっていることもあるのが、離婚した親と子の関係性の実情だと思います。
しかし、実は「法的な」親子の関係性というのは、実際の人間関係とは異なり、親が離婚したり、自身の親権者ではなくなったりしたとしても、変わらず存在するということになっています。
日本において「法的な」親子関係を定めている法律は、主として民法ということになります。民法にはまさに「親子」という章が存在します。
同じく結婚、婚姻関係について定めているのも主として民法になります。
ここで民法には、例えば第763条「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」のように、婚姻関係を解消することができる旨の定めがおいてあります。
しかしながら、親子関係については、これを解消することができる旨の民法上の定めはありません(例外的に、特別養子縁組をする場合や、親子関係不存在確認の訴えが認められた場合には、親子関係が無くなりますが、本記事とはあまり関係がありませんので省略します。)。
一般に言われる「勘当」「絶縁」「親子の縁を切る」というのは、あくまで実際の人間関係としての話であり、「法的な」親子関係を切る手続があるというわけではないのです。
当然、親同士が離婚して他人同士になった場合でも、「法的な」親子関係が解消されるという決まりはありません。
親が離婚したとしても、「法的な」親子関係はそのまま残るということになります。
離婚した親との親子関係が続くとはどういうこと?
そもそも、親と子の関係性がある場合、その2人の間にはどんな「法的な」関係性がある状態なのでしょうか。
これは代表的なところで言うと、
①親子間の扶養義務(親から子、子から親)
②親子間の相続権(親から子、子から親)
の2つが挙げられると思います。
①については、例え親同士が離婚して一方の親が子どもと同居しなくなったとしても、親が子に対して養育費を支払う義務があることは多くの人がご存じのことと思います。
また、将来子どもが成人し働き始め、反対に親が経済的に困窮した場合には、子どもが親を支援しなくてはならないという扶養義務も定められています。
そして、本記事のメインテーマである、②親子間の相続権もまた、親の離婚の有無にかかわらず、存在し続けることになります。
すなわち、
●離婚した親が亡くなった場合、子どもは相続人になる。
●子どもが亡くなった場合、離婚した親が相続人になる可能性がある。
ということです。
以下、詳述します。
離婚した親と子どもの相続関係
被相続人が亡くなった際に誰が相続人として相続権を持つかというのは、民法によって定められています。
そして、民法上、最も優先して相続人になるとされているのは、被相続人の子です(民法第887条1項)。
子は、被相続人の両親や兄弟姉妹より優先される、第1順位の法定相続人と定められているのです。
さて、親が離婚したとしても親と子の法的な関係性は切れずに存続するという話を上記で説明しました。
そうすると、離婚した親が亡くなった場合には、その子どもである自身は、民法の定めに従って第1順位の相続人になるということになります。
相続人になるのに実際の交流は必要ありません。親権も必要ありません。戸籍上、親子関係があれば良いのです。
そのため、「小さいころに両親が離婚したため、母親(父親)の顔は知らない」といったようなパターンでも、その顔も知らない母親(父親)の相続人になるということになります。
なお、これとは逆のパターン、すなわち子が親より先に亡くなったパターンでも相続が生じ得ます。
前述の通り、第1順位の相続人は被相続人の子ですが、被相続人に子がいない場合には、第2順位の相続人として、被相続人の両親(直系尊属)が相続人となると定められています(民法889条1項1号)。
これは、親が離婚したとしても親子の関係は続きますので、亡くなった子どもにその子(親から見れば孫)がいなければ、第2順位の相続人である親が相続人となるということです。
つまり両親のどちらも健在であれば、離婚した両親が両方とも、子の相続人となるということです。
このように、両親が離婚したとしても、親から子への相続、または子から親への相続の場面では、変わらず影響がないということになります。
法的な相続関係に影響は無くとも…親が離婚した場合の相続の注意点
上記の通り、両親の離婚は相続関係に影響しないということですが、これは「法的な」話。現実には、両親が離婚していることによる影響が全くないとは言い切れません。
以下、注意点という形で、考えられる現実の影響を挙げていきます。
①元配偶者である親には相続権は無いが、現実に関わることはある
親が離婚した場合、「法的には」親同士は夫婦から無関係の他人になります。
そのため、親の一方が亡くなったとしても、もう一方である元配偶者には相続権は無いということになります。
被相続人と血の繋がりがある子どもだけが相続人になるということですね。
そのため、遺産分割協議や相続手続きをする場合にも、主体は子どものみで、元配偶者である親は関われないということになります。
一方で、子が未成年である場合には、親権者は法定代理人として、子の代わりに法律行為をすることができます。
もし仮に、子が一人で、離婚後に親権を持たない親が亡くなった場合には、親権を持つ親は、相続人となった子どもの法定代理人として遺産分割協議に参加したり、相続手続きを行ったりすることになります。
そうすると、親権者である親からすると、法的にも縁を切ったはずの元夫(元妻)に関してその相続手続きを行ったり、元親族との間で連絡や調整を行う必要が出て来たり、後述する②のように再婚相手がいた場合にはその再婚相手らと遺産分割協議を行う必要があったりと、心理的に難しい場面が多いかもしれません。
また、子どもが成人している場合には、子は自身の意思で相続手続きや遺産分割協議を行っていくことができますが、現実には同居親の意見を取り入れざるを得ないというケースも存在しています。
このように、親同士は離婚して法的にはお互いに相続権を持たないとなったとしても、現実問題として、相続問題に関わってくる(関わらざるを得ない)ということはあり得るということです。
②再婚している場合には、再婚相手やその子との遺産分割協議が必要
もし仮に、親が離婚後に再婚した上で亡くなった場合には、現配偶者である再婚相手と、子である自身が相続人になります。
再婚相手との間に子どもがいれば、その子も相続人となります。
多くの場合では、離婚して同居していない親の再婚相手やその子どもと交流はありませんから、こういったケースの場合は面識の無い親族との間で、遺産分割協議をする必要が出てくるということです。
逆に再婚相手家族から、「親が亡くなったのでいざ相続登記をしようと思って戸籍を見てみたら、親には前妻との間に子どもがいた(異母(父)きょうだいが判明した)」という形で、こういったケースの法律相談を受けることが多々あります。
「そもそも相手の連絡先が分からない」「どんな人か分からないので連絡するのが怖い」「気まずい」など、面識が無い親族同士での遺産分割協議というのは心理的、物理的な困難が伴いますので、弁護士をご依頼頂くことも多いところです。
こういった状況がある場合には、一度弁護士に相談し、進め方のアドバイスを受けることをおすすめいたします。
③そもそも亡くなったことが分からない、財産の状況が分からない
これもかなり相談が多い点ですが、そもそも離婚し別居となった親については、交流が続いていない限りは、その行方や安否さえも分からないということが良くあります。
そういった場合に、もしかすると知らない内に亡くなっているのではないか?知らない内に相続が発生しているのではないか?ということがご心配であるという話を伺います。
ちなみに、子という立場の場合、親の戸籍謄本を取得することができますので、それで生死を調べるという方法はあります。
ただし自動的にその生死を知らせてくれる制度というのは今のところありません。
多くの場合は生死を調べようと思って戸籍を調べるのではなく、何かのきっかけで、亡くなったことを知ることが多いと思います。
以下は一例ですが、離婚し別居して交流が無い親について、その亡くなったことを知るきっかけというのはいくつかあります。
本人確認が必要なケースや遺体の引き取り手が必要なケース
例えば離婚し別居となった親が、亡くなった際には独居していていわゆる「孤独死」をしたようなケースだと、警察の捜査・調査の関係で、子などの血縁者に亡くなった方の本人確認をさせるというようなことがあります。
そういったケースでは、突然警察から連絡があるため大変驚かれると思いますが、亡くなったことを知るひとつのきっかけになっています。
また、親族ということで、警察や病院、行政などから遺体の引き取りを打診されることもあり、これもひとつのきっかけになっています。
周囲の人から連絡があるケース
例えば離婚し別居となった親が、再婚をしていた、内縁関係の人物がいた、懇意にしている知人がいた等のケースだと、お葬式等のお別れの連絡が来ることがあります。
また、葬式や埋葬自体は周囲の人が済ませてしまい、のちに亡くなったことや預り物がある等といった連絡があることもあります。
ただしこれは、生前に亡くなった親が周囲の人に頼んでいた場合など、積極的に自身の身の上を発信していないと実現は難しいものでもあります。
そのため、あまり多いケースでは無いかもしれません。
亡くなった親の親族から「念のため知らせます…」と連絡があるケースもないではないですが、レアケースのように思います。
債権者から相続人である子に対して連絡があるケース
亡くなった親との交流が全く無い場合だと、多いのはこのケースだと思います。
すなわち、亡くなった親に対して何らかの債権を有している債権者が、その相続人に債務の履行を求めて連絡することで、その死が発覚するというパターンです。
よく聞かれるケースとしては、
●ある市役所から、固定資産税等の税金が未納になっているという連絡が来た
●クレジットカード会社から、残債の引き落としができないため、返済して欲しいという連絡が来た
●入居していた賃貸物件の貸主から、中の荷物を引き取って明渡して欲しいと連絡が来た
…というようなものです。
いずれも、債権者が、法律上次の債務者となる相続人に、その債務の履行を求めて(あるいは契約の解除を目的に)連絡をしてきているという状況です。
亡くなったことを知らされたら、まず相続放棄の検討を!
上記のような連絡を受けた場合には、まず真っ先に、相続放棄が必要かどうか検討することをおすすめいたします。
相続放棄には期限があり、通常は被相続人が亡くなったことから3ヶ月以内となります。
この記事で扱っているような、離婚した親との実際の交流が全くなく、誰かからの連絡でその死を知ったようなケースでは、その連絡を受けたときから3ヶ月以内に相続放棄をしなくてはならないのが原則となります。
そして、相続放棄が可能な期間内に、相続をするかどうかを決めなくてはなりません。
しかしながら、交流がない人物については、借金等があるのかどうか、逆にプラスの財産(不動産や預貯金等)があるのかどうか、その財産状況は分からないことがほとんどだと思います(上記③の債権者から連絡を受けるケースでは、少なくとも連絡されてきた債務(借金や税金の未納など)はその情報が分かりますが、それ以外のプラスの財産、マイナスの財産の情報は分かりません。)。
したがって、多くの場合では亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に、これらの情報を集めて精査するというのは難しいのではないかと思います。
そこで、方針としては以下の2つが考えられます。
A 家庭裁判所に熟慮期間伸長の申立てをして、相続放棄の期限を延ばしてもらう
B プラスの財産もマイナスの財産も相続しないと決めて、相続放棄の手続をする
Aについて、まず、きちんと調べて決めたいという場合には、相続放棄までの期限を延ばしてもらう必要がありますから、管轄の家庭裁判所へ熟慮期間の伸長の申立てをしなければなりません。
伸ばしてもらえる期間は多くの場合3ヶ月です。したがって、もともとの3ヶ月と合わせて、合計6ヶ月の期間内に調査することになります(必要性が認められれば、さらに期間の伸長ができる場合もあります。)。
手続き後、急いでプラスの財産とマイナスの財産を調べなくてはなりません。
各銀行や信用金庫に預貯金の有無を問い合わせる、市役所から名寄帳を取り寄せる、法務局で登記を調べる等の方法によって資産状況を調べ、信用情報機関に問合せて信販会社や消費者金融等からの借入が無いかどうかを調べるといったことをしていくことになります。
一方で、上記のように調べるのは手間も時間もかかりますし、その結果財産状況の全容が判明するとも限りません。
特に、借金に関して言えば、消費者金融や銀行等からの借入であれば信用情報機関に登録がありますが、個人間の貸し借り等だと、その情報は登録されません。
貸し借りでなくとも、誰かの債務の保証人になっているといった場合も、これを網羅的に調べる術はありません。どうしても、調査漏れの可能性は捨てきれないのです。
Bの方針は、こういった煩わしさやリスクを回避するために、プラスの財産を諦め、相続放棄してしまうというものです。
また、離婚した親に再婚相手やその家族がいるといったような場合には、遺産分割協議を回避するために相続放棄をしてしまうというのも、ひとつの解決法になります。
どういった方針をとるのかは、リスクや時間的・経済的コストを考慮し、さらには自身の心情を大切にして、決めていくことになります。
正解はご自身の中にあるものです。
弁護士は、その判断の一助になるよう、法的な観点から状況の解説をしたりリスクや見通しの案内をしたりすることができます。
そのため、こういったケースに自身が遭遇し、その判断に迷われたときは、是非弁護士へご相談することをおすすめいたします。
まとめ
いかがだったでしょうか。
親の離婚や、それに伴う別居、関係性の希薄化など、実際の人間関係としては変化があり繋がりが途切れてしまっていた場合にも、「法的な」親子の関係性は切れることはなく、そのため、親子がお互いに相続人になり得るという話を見てきました。
ただし、上記でも述べた通り、親の離婚に伴う(あるいは付随する)様々な変化によって、事実上の影響はあるところとは思います。
法的にはどういった帰結になるのか、実際の相続問題の進行や見通しとしてはどうなりそうなのかといった点は、今後相続をどう進めて行くのか、あるいは相続放棄をした方が良いのかというご自身の判断に関わる重要な要素です。
弁護士は、法的なアドバイスはもちろん、数多く相続案件に関わってきた身として、実際上の進め方や見通しについてもアドバイスが可能なものと思います。
離婚した親の相続について何かお困りの際には、ぜひ弁護士までご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。