遺産分割と納税義務という観点で見ますと、つい相続税だけに目が向きがちですが、実は、その他にも気を付けることがあります。
まず、アパート経営をされていらっしゃる方はご存知かと思いますが、毎年確定申告が必要です。そして、確定申告をしている被相続人が亡くなった場合、相続人の方も、被相続人の所得について確定申告が必要になります。
また、遺産分割において、不動産を売却してその代金を分配する場合がありますが、その場合には、不動産の譲渡所得税もかかることがあります。
このように、遺産分割と納税義務は、非常に密接に関連します。
具体的な納税に関する助言は税理士でなければできませんが、弁護士が遺産分割を扱う場合には、納税義務との観点では、次のような点に注意することが必要になります。
まず、相続税を含むすべての納税義務との関係では、法的に有利な主張が、納税義務との観点で有利ではない場合があり得ます。このような場合には、必ず税理士に事前に相談したうえで、遺産分割を進めることが必要です。
また、これもすべての納税義務に関係しますが、相続人の中に、意思能力に問題がある方がいらっしゃると、場合によっては、遺産分割や申告ができないという事態が生じえます。すなわち、本来は成年後見人の選任が必要であるにもかかわらず成年後見人を選任していないような場合、遺産分割を進めることはできません。このような場合、まずは後見開始の審判申し立てが最優先に必要となります。
不動産の譲渡所得税との関係では、ある一人が不動産を単独相続して代償金を支払うような場合に注意が必要です。例えば、1000万円の相続財産不動産を、兄弟4人で相続するという場合に、兄弟の一人Aが不動産を取得して他の兄弟3人に代償金を支払うという遺産分割が成立したとします。この場合、法定相続分での一人当たり取得額(1000万円÷兄弟4人)は250万円ですので、一見、Aは、250万円×3の750万円を支払うことが公平になるようにも思えます。しかし、Aは、不動産について譲渡所得税を支払う場合があり、仮にその税額が30万円だとすると、Aは、1000万円-30万円=970万円の相続財産を得たのみになります。遺産分割はすでに成立してしまっていますので、後になって、他の兄弟にこの譲渡所得税の負担を求めることはできません。
従いまして、不動産の売却益を分配する内容で遺産分割をする場合には、譲渡所得税やそのほかの費用までを視野に入れて、分割内容を確定させる必要があります。
以上のように、遺産分割をする場合には、法的な観点だけではなく納税義務を意識し、適時に税理士のアドバイスを受けられる弁護士を選ぶことが重要になります。
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